多田農園は、明治34年(1901年)兵庫県福崎町からこの地に入植して121年目を迎えました。機械化が進む以前は、小麦、小豆、ジャガイモ、タマネギ、ニンジンなど多種類の作物を栽培していました。昭和40年代になってトラクターの普及によって作物の種類もしぼられてきて、昭和43年には、タマネギの直販から移植栽培に変化するのに伴い栽培面積の拡大が可能となり定温貯蔵庫も造って タマネギ専業農家として改めてスタートを切りました。この定温貯蔵庫は、のちに人参の洗浄選別工場となり、ワイナリーへと変遷を経ることになります。
30年間ほど玉ねぎ栽培中心農業でしたが、後半は人参栽培も増え、その後は人参専業農家として選果場を設備して大型収穫機も導入し、本州方面の市場に出荷しておりました。その後は、とうもろこしやかぼちゃ栽培も取り入れながら農業経営を維持しておりましたが、2007年にワイン用のぶどうを植栽することになり700本のピノ・ノワールからワイン事業はスタートすることになりました。ぶどうの植栽と同時に既存の建物を再活用して農家民宿を始めました。当初は食事なしの素泊まりから始まり、朝食の提供、数年前からは夕食も提供するようになりました。食材は、農園産の無農薬、無化学肥料栽培の野菜が中心です。食材のほとんどが地元産と農園産です。家族連れのお客さんも多く、野菜嫌いのお子さんが野菜を美味しいと言って食べる姿を幾度も目にすることがあります。
教育ファームにも積極的に取り組んできました。きっかけは、15年ほど前のある農業セミナーでフランスの国民性と教育ファームについての関連性について聞いた話でした。農業のステータスを高めるには地道な取り組みになるが、子供のころから農業に触れ合う取り組みが将来、大きな成果として表れるとのことでした。その話を聞いて、フランスの教育ファームについて渡仏して調査しました。そして地元でその取り組みを始めて多くの農家の方々に協力をいただきました。15年ほどの間に農業体験、教育ファームの取り組みで3,000人以上の小学生から大学生まで受け入れております。最近は、都合によりかなり受入れ規模を縮小しています。
一方、農家民宿としての受入れは、夏季間のみの営業ですが、年々、利用者が増え続け、4室ある部屋は多くのお客さんにご利用いただき、新たな出会いと交流が生まれています。ワイナリーを新設してからは、夕食のバーベキューの折に、ワインを召し上がっていただく方々も増えており、野菜など食材とワインが自社栽培ということは、大変うれしいことです。
加工は20年前ににんじん工房を新設してジュースづくりを始めました。搾っただけの冷凍ジュースとりんごやレモンを入れた瓶入りのにんじんジュース(瓶入りは北海道産の高抗酸化栽培人参使用)、さらに2020年からは農園で栽培を始めたりんごが収穫できるようになり、酸味のある紅玉のりんごジュースや千両梨ジュース、さらにピノ・ノワールジュースも少量ながら製造、販売を始めました。また、にんじんジュースは冬場の仕事として活用しています。人参は無農薬、無化学肥料栽培でさらに免疫活性値が高まる栽培法を追及して、ジュースを摂取することにより、健康への効果が期待できる原料づくりに努力しています。
ワイン用ブドウ栽培は、ピノ・ノワールから始めて、シャルドネ、メルロ、バッカス、ミュラー・トゥルガウと品種を増やしています。現在、醸造方法も工夫しながら10種類以上のワインを製造、販売しています。醸造は野生酵母での自然発酵と亜硫酸塩の使用は瓶詰め時のみ最少減使用しています。ぶどう畑での除草剤の使用は一切行わず、手作業で草取り、草刈りを行って大事な酵母を守っています。ピノ・ノワールを植え始めたころから、障がい者のみなさんの働く場の提供を始めました。4年前からは通年で6~7名の障がい者のみなさんが仕事をしています。厳しい自然環境の中での仕事ですが、四季の移ろいのなかで、生育に合わせて行う仕事などリハビリーにはいい効果が出てきています。多田農園は小さな農園ですが、生産から加工、販売、そして教育、福祉など社会的取り組みも積極的に進めております。経営理念のひとつであります農業のもつ価値を高めて農村、農業を楽しむ価値観の形成に向けて、惜しまず努力を重ねていきたいと思っています。
農園の鳥瞰図は、地元在住の美術家が10年ほど前に描いた絵です。屋根の色は現在、茶系になっています。