わたしの農業 2018         
                                  多田 繁夫 

今年も全国的に災害の多い年でした。豪雨による被害は常態化し、それに全国各地で繰り広げられる地震は、またかという印象で日本列島全体が揺れ動いているようでもありました。北海道では、9月6日未明、厚真町を中心に震度7という最大級の地震が発生、数百メートルに亘り山が崩壊し、無残な姿を露呈しました。さらに、厚真火力発電所ではボイラー管が破損し、その影響ですべての発電施設が停止して北海道全体が停電をするという前代未聞の出来事が発生し、ブラックアウトという現象が起きました。この北海道胆振東部地震による犠牲者は41人にも及びました。  今年は、農園にとっては雨の多い年でした。また、前半は気温が低い日が多かったのも特徴でした。ぶどう栽培には、大変、厳しい年でもありました。ぶどうは7月上旬に開花期を迎えます。この開花期に長雨が続くと受粉ができずに大きな減収に結びつくことになります。まさに、今年は開花期にぴったりと長雨が続き、大きな減収となりました。しかし、悪いことばかりではなく、粒がまばらな分風通しがよく、病気の発生が極端に少なくなり、また、粒数が少ない分、一粒にいく栄養が多くなり、糖度が高い良質なぶどうを収穫することができました。また、人参は生長の初期と中期に雨の多い日が続き、根の発育が阻害され大きく生長することができませんでした。無農薬栽培ですが、こんな気候でも雑草だけはよく生えて生長しました。今年は障がい者の就労継続支援A型のみなさんをテスト的に通年で働きに来ることになっていたので、除草にも活躍していただきました。その結果、全体に小さな人参でしたが、無農薬にんじん搾りの原料は確保することができました。今年は途中、3か月間ほどにんじん搾りの在庫切れがあり、病気の方々に迷惑をかけてしまいましたが、来年度は、なんとかもつのではと思っています。がんを患っている方で食事療法にも取り組んでいる方は、人参の摂取は大変重要になります。人参のベーターカロテンの含有量は野菜の中で飛びぬけて多く、同じ緑黄色野菜の中でも南瓜の2倍ほど高くあります。ベーターカロテンは、体内でビタミンAに変化します。このビタミンAが細胞を傷つける活性酸素を抑える作用があります。細胞を傷つけるということは新たながんを発生させることにつながります。このことを知っている方は、これ以上、癌細胞を増やさないためにもベーターカロテンの摂取を求めているのだと思います。さらにジュースなどの液体で摂取すると固体で摂取するより7〜8倍の吸収率が高まるとも言われています。人間の細胞は37兆個からできており、日々、新陳代謝を繰り返しています。いわゆる古い細胞から新しい細胞へと変わっていることになり、その新しい細胞をつくっているのは、薬ではなく当然のごとく食べ物になります。からだにいい食べ物を摂取するといい細胞に体中が変わっていくことになります。食べ物の重要性を今さらながら感じています。現在、農園ではワイン用のぶどう栽培が中心ですが、人参栽培にも力を注いでいます。人参と一口に言っても、栽培方法や産地、気候、土壌などによってその成分も違い効能もさまざまです。農薬や化学肥料が細胞を傷つけてからだに悪いことは誰でも知っていることです。しかし、硝酸態窒素の存在を知っている方は、ごく稀です。硝酸態窒素はどの野菜にも含まれています。問題はその含有量です。今年のように雨の多い曇りの日が続くと、根から窒素分を多く吸収しますが空は曇りですので、光合成が十分に働きません。いわゆる糖の生産が植物体内で十分できなくなっています。糖と窒素でアミノ酸が生成され、葉や実になるたんぱく質ができるのですが、曇天続きで雨が多いと根からの窒素吸収は多くなり、逆に太陽の出が少なく光合成が減り、糖と窒素がアンバランスになり窒素が作物体内にだぶついた状態になります。この硝酸態窒素が人体に悪さをします。農薬などと同じように細胞を傷つけてしまいます。栽培過程でこのバランスを正常に戻してあげなければなりません。農園の人参は硝酸態窒素を減らす栽培法をしていますので、その含有量は、かなり低くなっていると思います。硝酸態窒素は食べてえぐみがあることによって確認することができます。しかし、自然界のことですので、完全に取り除くことはできませんが日々努力はしております。  最近、人生100年時代という文字を見かけるようになってきました。確かに平均寿命は年々、伸びてきておりますが、同時に健康年齢という言葉もよく耳にするようになってきました。高齢化社会は周知の事実ですが、果たしてこのままで日本の国は成り立つのでしょうか?総務省の資料から現在の平均年齢は約48歳、30年後の2050年には約55歳まで伸びると推移しています。それに伴い厚生労働省の資料では、社会保障給付費は現在の130兆円から2050年には約190兆円になるそうです。この数字を私たちはどう受け止めればいいのでしょうか。明日は我が身で国民一人一人に襲い掛かってくる数字です。老後の唯一の収入源の年金、病気の時の医療費の負担、自由に動けなくなっときの介護費の負担、多くの国民は不安が募るばかりです。私も昨年から国が定義した高齢者の仲間入りをしました。僅かながらの年金も支給されました。農業者は国民年金と農業者年を合わせても年間100万円を少し超える程度です。農業は体力を使う仕事であることは言うまでもありません。後継者がいる場合は65歳くらいで息子たちに経営を譲りますが、現在は、後継者がいる農家は稀です。そうすると設備投資は極力避けながら70歳くらいまでは頑張っている人が多いようです。稀には80歳まで後継者がいなくても農業を続けている剛健な体の持ち主もいますが、例外と言えるでしょう。全国の農業従事者の平均年齢は67歳、北海道は58歳です。北海道は65歳以上が35%ですが、全国は65%です。この数字を見ても分かるように日本の農業はもちろん北海道農業も崩壊の一途を辿っています。農村のコミュニティは成り立たなくなってしまいます。限界集落ということばが発せられて衝撃を受けた記憶がありますが、日本中の農村がまるごと限界集落に変わってしまう日もすぐ間近です。現場にいるものとして果たして手をこまねいていいのかという疑問に苛まされる日も多くなってきました。かといって一個人に何ができるのでしょうか。私は昨年まで、毎年、仙台市で開かれている東北農家セミナーに10年ほど参加していました。参加者は、東北、北陸、中部などを中心に30数名限定の小さなセミナーです。北海道からは私一人でした。静岡からの常連の参加者もいました。丸二日間、セミナーがあり講師は哲学者の内山節氏です。哲学を中心に経済を学ぶセミナーです。この10年間、多くの農業者との交流もあり、なんといっても内山哲学に直に触れ合えることは、私にとって大変貴重な経験でした。ある年のセミナーで内山氏は、新たな多数派をつくるという運動を自ら起こしていることを話されました。私は、今、そのことを思い起こしています。一人の人間のできることは限られています。であれば、志を同じくする者たちが、それぞれが住んでいる地元で行動をとれば、それが全体として大きな形になるということです。まさに、今求められていることではと感じています。農村で暮らし、社会の経済状況がどんなに変わっても、乱されることなく豊かに暮らしていける社会の実現に向けて考えなければならないと感じています。そこは、農村をおいてほかにはないと考えます。このままでは、全国どの農村も高齢者集団で限界集落のオンパレードとなります。まずは、地元上富良野の地域内でそれぞれ住んでいる場所で、サステナブル(持続可能)な社会の実現に向けて行動することができないか模索したいと考えています。 年も押し迫った12月、長年の夢であったイタリアへ行くことができました。イタリアは行ったことがなく、テレビの世界だけでした。その中で、小さな村に住む村人が、しみじみと語る言葉にいつも心を動かされました。それは、高等教育を受けたことがない村人の多くが、自身の経験から本に書かれていない自分なりに見つけ出した生き方を自分のことばで語る姿でした。なぜ、そのような自分の生き方を哲学的に語れるのだろうという疑問は募っていました。この疑問を解決するために、この計画は1年半くらい前から始まりました。かみふらの軽トラ市の仲間に話したところ4名の方が行きたいとの希望があり、私を含め5名で10日間のイタリア研修が実施されました。一回のイタリア研修で答えを見つけ出すことは容易ではありませんでしたが、3泊4日したトスカーナの農家民泊でヒントを見つけることができました。そこは、小さな村の山の中腹に3室のコテージと小さなワイナリーを経営している小規模農家でした。ぶどうとオリーブ栽培を行っており、ワインの製造とオリーブオイルの製造もしていました。オーナー夫妻の心温まるもてなしに参加者一同感激の時間でした。やはり、この60代の夫妻も日々の生活に自分なりの価値観を見出し、人生に喜びをもって生きているように感じました。そして、イタリアは世界で一番古いワインの産地であることとイタリアワインは世界一であると自負し、ワインづくりに誇りをもっていることでした。この農家ワイナリーは、何代前から始めたのか分からないというほど古い歴史のあるワイナリーで代々受け継がれていました。さらに、次の代に引き継ぐために、世界の頂点ということにあぐらを掻かず、その時代に合った最良の方法を考え取り入れ、より良いものにして次世代に引き継ぐという努力を惜しまないことが、当たり前のように行われていることでした。ワイン文化という日本にはなじみが薄い文化の違いはあるにせよ、日本ではほとんど見ることがない光景でした。伝統と文化を大切にしている国民性こそが、時代に流されず心豊かに暮らしていける要因であると思われました。よく考えてみれば私が農業に従事した50年近く前には、そのような文化が日本にもあったように思います。その当時の農家の人たちは、自分の代はもちろん後世に肥沃ないい土地を残して、毎年、豊作になることを夢見て、客土など土壌改良に努力をしていたのと重ね合わせることができます。しかし、現在は、後継者不足も手伝って大型機械による農法が主流となる時代に、耕作放棄地も今後増えることが見込まれる中で、その思いもいつしか忘れ去られようとしています。今回のイタリア研修で忘れていたものを思い起こさせてくれる最良の機会になったことは間違いありません。私はワイン造りに関わって12年ほどしかたっていませんが、イタリアの農家ワイナリーのオーナーと会うことができたことは、大変、貴重な出来事でした。また、ワインが取り持つ縁で、人と人のすばらしい関係を幾度となく与えられ感謝しています。今回参加した5人のメンバーのチームワークもよく、楽しいイタリア研修になったことに改めて感謝です。

2018.12.29