わたしの農業 2015         
                                  多田 繁夫 

今年の「わたしの農業2015」を書くのが、ずいぶんと遅くなってしまいました。師走を迎え、まもなく2015年が終わろうとしています。そこで今年1年を振り返りかえりたいと思います。1月の仕事始めは、にんじん工房でピクルスづくりから始まりました。そして、にんじんジュースづくりと手づくりの加工品づくりが行われました。その間、2月に全国放送のTBS系「しあわせの大地」というテレビ番組に出演する機会がありました。すると突然、ホームページのショッピングサイトへ注文が次から次へと入ってきました。普段はゆったりペースの注文ですので、びっくりしましたが、3日間くらいで収まりました。単発番組としては異例の10%代の視聴率だったそうです。年を明けて1月3日に再放送されます。
2015年の1月〜3月の冬は積雪が極端に少なく、ぶどうの樹を寒さから守るための雪掛けを何度も繰り返しました。一生懸命、雪を掛けて寒さから樹を守ったつもりでしたが、新芽が吹く季節になってもなかなか一斉に芽を出さずに、結局、例年の70%くらいの発芽で終わってしまいました。特にメルロは昨年の30%くらいと大きな打撃を受けました。夏場は、例年になく、雨の多い年でもありました。ぶどうは、石が多い畑に植えましたので水はけが良く、大きな影響はありませんでしたが、にんじんは土壌水分が多かったので、特に低い土地では土壌水分が多すぎて根が窒息死して生長に大きな影響を及ぼしました。かぼちゃは、長く伸びた蔓からも根をだし養水分を吸収する大変、貪欲な作物なうえ移植した時期が受粉のタイミングに良かったのか、品質のいいかぼちゃが予想以上に収穫することができました。
また、近年にはない価格の高騰があり小面積でしたが、地元旭川の市場に出荷しました。昨年までは、東京の大田市場がにんじん、とうもろこし、かぼちゃの出荷先でした。今年から思い切って市場出荷を基本的には止めることにしておりました。加工用の原料と直販や体験用の作物のみを作ることに切り替えた年でもありました。とうもろこしは5種類、かぼちゃは10種類、にんじんは4種類、ジャガイモは6種類、そして無農薬栽培の野菜を15種類ほど作りました。それぞれ小面積でしたので、畑の半分近くは休んでいました。規模を拡大するのが北海道農業の特徴であり、国も推進していますが、まったく逆の方向に舵をきったことになります。いざ、作物づくりを大幅に縮小してみると、売上げの少なさに不安も覚えました。規模拡大より規模縮小の方がよほど勇気のいるものだと実感させられた一年でもありました。
大量生産―大量輸送―大量販売が北海道農業の特徴ですので、多品種少量生産―少量輸送―多品種少量販売が大消費地から遠い上富良野で果たして成立するのかと不安は尽きません。無農薬野菜の年7回のお届け、とうもろこしの収穫体験、地域の生産者との軽トラ市、地元スーパーでの直売コーナーでの販売など、どれもがまだ始めて日が浅く、結果が出るまではかなり時間がかかります。それでもよく言われる顔の見える関係を実践してみて、作ったものの価値が高まり、楽しさも感じております。
今年の夏は、にんじんなどの市場価格に神経をとがらすこともなく、野菜の市場相場にはほとんど関心を払うことはありませんでした。今年は、はじめて地元の学校給食に当農園のにんじんを納めました。地元の子供たちが私の作ったにんじんを食べてくれていると思うとほのかな喜びが湧き上がってくるのを感じます。当農園のにんじんは分析はしておりませんが、抗酸化力の高いにんじんになるよう栽培しております。先日、「ガイアの夜明け」という番組に私の友人のにんじんや白菜を大規模に栽培する農家が出演しました。そこで、彼のにんじんを分析したところ、一般のにんじんの2倍の抗酸化力があったそうです。
当農園の栽培方法も同じですので2倍以上の抗酸化力があることになります。近年、野菜の機能性を表示しようとする動きがでてきています。同じにんじんでもその機能性は栽培方法などで大きく変わります。(抗酸化力とは、がんなどの原因になる細胞を傷つける活性酸素を抑える力のこと)旭川医科大学でも地域の野菜の抗酸化力を調査してデータを蓄積しているとの新聞記事がありました。名古屋で惣菜などの原材料を全国に配送する会社も野菜などの抗酸化力を分析する子会社を数年前から立ち上げ、新たな販売方法を推進しています。
今年は、ぶどう栽培を始めて9年目を迎えました。ワインの委託醸造も6年目、来年は、いよいよ自前のワイナリーの立ち上げを行う予定で準備を進めています。来年、2016年はワイン事業に着手して10年目、ワイナリー開設の節目の記念すべき年になります。記念事業ともなるワイナリーのオープンのため、準備を半年前から進めています。ワイナリー開設には、クリアしなければならない大きな壁が3つあります。ひとつ目は資金の調達、二つ目は醸造技術、三つ目は経営の健全化です。それらがすべてクリアされて、醸造免許が下りることになります。現在は、岩見沢市にある二つのワイナリーに製造をお願いしています。そのひとつが野生酵母でのワイン造りです。野生酵母は、ぶどうの果皮についている酵母と空気中の酵母がぶどうの糖と反応してアルコール変化します。発酵過程で雑菌が入り込むと大変、大きな影響があるリスクの高い醸造方法です。しかし、この野生酵母で造ったワインはその土地そのものを感じることができる大変、特徴的なワインになります。とくに当農園のシャルドネは、ワインの専門家もフランスの本場ブルゴーニュのシャルドネと重ね合わせるくらい高い評価を得ています。これは、当農園の地層が大きく関わってきます。昨年15メートルの地層のサンプルを採取しました。そこには、何万年前かに起きた十勝岳の大爆発時に草木の上に大量に降り注いだ火山灰の層があり、その下には草木が腐らずに残った泥炭の層があります。火山灰はミネラルが豊富です。さらに驚くことに、幾層にも水の層があります。これは、眼前にそびえる富良野岳、十勝岳の伏流水であり、地下プールのように豊富な水が流れています。この伏流水は、100年以上前の雨水が森の中で蓄えられて岩盤などを通る過程でミネラル分を吸収して良質な天然水となり、畑の地下を幾層にも流れています。山が存在する限り永遠に流れ続けることになります。この要因が国内でも有数のシャルドネになる可能性を秘めた良質なぶどうを作り出していることになります。人間の力など僅かであり、何万年、何十万年の歴史が当農園のワインを造り出していることになります。厳しい気象条件を乗り越えて豊かな根圏環境が造りだすワインには、人を引き付ける芯のしっかりした力強さと優しさを感じるワインと言われています。来年は、当農園に存在する野生酵母で発酵させたワインが出来上がる予定です。それこそがテロワールです。(テロワールとは、フランス語でぶどう畑の土壌、地勢、気候、人的要因などにより総合的に形成されるものという意味)平成28年度は、シャルドネ500本、メルロ500本の合計1,000本を新植します。さらに平成29年度は、シャルドネ500本、バッカス500本の合計1,000本を新植するよう準備を進めています。現在、欧州系のワイン用ぶどうの苗木はひっ迫しており、秋に剪定した枝を山形県にある苗木会社に送り、翌年、台木に接ぎ木して山形県の畑で1年育てて、翌々年の春にこちらに戻ってきます。苗木を確保するにも足掛け3年かかります。それから当農園の圃場に植えて、さらに3年目で初めて収穫できます。収穫したぶどうを仕込んでさらに早くて1年後に販売ができるわけです。穂木を採って販売が始まるまで足掛け7年になります。長い時間を経て、ここで収穫して野生酵母で発酵させたここでしかできないワインが造られることになります。たしかに長い年月がかかりますが、育てて生長を楽しむことができます。その間にいろいろなアクシデントが発生します。厳しい気象条件による災害、アライグマ、タヌキ、キツネ、鹿、カラス、スズメバチなどによる鳥獣害、さらに病虫害など多くの敵とたたかわなければなりません。それは決して容易なものではありません。現に今年は、カラスの大群が押し寄せて収穫間際のぶどうを食べたり、スズメバチがぶどうを次から次へと刺して蜜を吸ってだめにしたり、アライグマこそ今年はきませんでしたが、町内の他の地域では、大量のアライグマが捕獲され、とうもろこし畑が全滅したところもありました。アライグマは多産系の動物で爆発的に増える可能性があり、脅威となっています。アライグマは、もともと日本には生息しておらず、海外へ行った旅行者がペットとして買ってきたものが逃げて野生化したと言われています。北海道にどのようにして渡ってきたか定かではありませんが、農作物への影響は計り知れないものがあると思われます。
食の安心、安全は当たり前という時代になってきましたが、安全で安心できる作物栽培を手掛け始めてつくづくよかったと思うできごとがありました。それは、今年の5月に名古屋にいる娘に子どもが生まれたことです。いわゆる私たちの初孫になります。出産予定日の前後2か月間の合計4ヶ月実家である当農園で過ごしました。その間、出産前から私の作った安全で安心できる野菜を食べていました。おなかの赤ちゃんも食べたことになります。出産後も安全な私の育てた野菜を食べて母乳を赤ちゃんに与え続けました。現在も大型冷蔵庫で貯蔵して野菜を送っています。こんなに嬉しいことが農業を通して訪れるとは思いませんでした。私は、10年ほど前に新陳代謝という言葉の意味がどれほど大事かを思い知らされました。人間の細胞は約60兆から成り立っています。この60兆もの細胞が日々、古い細胞から新しい細胞へと変わっているということが、実感できたからです。この新しい細胞を作っているのは、言うまでもなく薬ではなく食べ物です。からだにいい安全な安心して食べることができる食物を摂取し続けることにより、からだの細胞が正常なものに置き換えられることになります。当農園の宿泊施設に泊りのお客様に、農園朝食を提供しています。目の前の畑から無農薬の野菜を採ってきてサラダや味噌汁の具材にします。味噌も無農薬大豆を育てて作り、春にはアスパラを夏にはとうもろこしやトマトをさらにナスを蒸したり、じゃがいもの季節にはじゃがバタを、秋遅くには、農園内にある樹齢100年ほどの千両梨を出しています。主食は、当農園のかぼちゃ、じゃがいも、コーン、うの花などが入ったおやきです。私たちにとっては特別なものではありませんが、お客様には、特別の朝食のようです。多くの皆さんが大変、満足してリフレッシュされて帰られます。大人も子供も喜んでいる姿を見ては、私どもも嬉しくなります。

 2015.12.17