わたしの農業 2014         
                                  多田 繁夫 

今年の雪解けは、例年になく遅いと思っていましたが、3月下旬の暖気で一気に雪解けが進み、4月になって気がついてみたら例年より早い春耕期を迎えていました。私の農園は、この地域の平均耕作面積18haの3分の1の6haですが、農作業に振り回されているのが現状です。面積は、諸々の事情で増やすことはしませんでしたが、すべてを商品として販売しているので、手間がかかってしまいます。そのわりには、収入が一向に伸びない現実があります。今年こそはといつも期待をしながらのスタートですが、良い結果に結びつくことは稀です。農業のもつ魅力を感じつつも忙しさからの解放がなされず、経済的豊かさではない豊かさを享受できる生活を求めているつもりが、その余裕さえ失われている現実に直面して反省の日々を過ごしています。
5月3日、小さなワインショップをオープンしました。既存の施設等を利用して設備投資は2万円ほど。ここ3年ほど、毎週、イタリアの小さな村のテレビ放送を見ることが多くなっています。どこかで見かけた風景だなあと感じていたら、イタリアの村々の営みは、当農園の営みに共通していることを見出すことがあります。手づくりが基本の小さな仕事です。小さな村には、必ずバールがあり、バールでは早朝、コーヒーなどを飲みに村人が集まり、昼にはランチを夜はワインを飲みながら食事をと常にコミュニケーションの中心にあります。そんな場所が日本の村々にもあればと思いながら見ています。先日、月一回のワインショップでのテースティングディに近くに住む神戸からの夏だけの移住者(外国航路の船長さん)が訪れました。ピザを予約されて、3種類のワインを楽しそうに飲んでいました。私もなんだか一緒にワインが飲みたくなり、白昼でありながら小さなワインショップがイタリアのバールのようでうれしくなりました。僅か一時間の出来事でありましたが、私には久々の心豊かな時間でした。豊かな時間の過ごし方を忘れていました。豊かさは、まず、時間からであると実感したひとときでもありました。ワインの持つ魅力は、ぶどうの栽培から始まり、醸造、そして飲む楽しさです。楽しい会話はワインがまさに醸し出してくれるのでしょう。人生、ワインの豊かさから学ぶべきだと感じる一幕でした。
さて、現実の忙しさに戻るとイライラ感が充満した生活が待っています。これではだめだと今年は、少ない面積をさらに少なくすることにしました。1haに牧草を播いて作物づくりは休みです。畑を休ますという行為が今までできませんでした。一年に一回の収穫を考えるともったいないと。しかし、ここ10年は、農業生産部門では、十分な利益が発生していないのも事実です。それどころか赤字になることもまれではありません。企業であれば当然、赤字部門はカットするでしょう。為替差益による増益などがあるわけでもなく、まして人員整理などあり得ない話です。処分する財産などあろうはずもありません。奇跡的なX字回復の話が大手企業の中ではあるようですが、私からすると禁じ手を使っての回生です。
昨年は、地域の農家の人たちと町の中心地で「軽トラ市」と称して農産物の直売を7月から月1回開催しました。どんな反応か不安もありましたが、思いのほかいい感じで終えることができました。出店農家は10戸でしたが、若い農業女性も参加してまさに老若男女の直売所でした。消費者の皆さんも回を重ねるごとに増えて、この開催を楽しみにしてくれていたようでした。生産者と消費者が望む関係を橋渡しした取組みでしたので、新鮮でいいものを適正価格で提供し、消費者との対面販売を行うことにより、意義を強く感じる直売でした。今年は、さらに発展させて7月から週1回のペースで軽トラ市を開催することにしました。全国的には直売所ブームはすでに何年も前から始まっていますが、ここ北海道上富良野の厳寒の地での直売所の運営は、そう簡単にはいきません。農家の一戸当たりの経営面積は益々増え続け、短い夏の農作業は作るだけで精一杯の余裕のないものになっています。先日、福岡県の直売所を数か所見る機会がありました。大変な活況でした。しかも、年中、新鮮な野菜などを販売できるとのことでした。北海道はというとせいぜい、4ヶ月位しか新鮮野菜を販売する期間はありません。大きなハンディキャップです。このマイナス要因をプラスに変える方法はないのでしょうか。9年前にカリフォルニアワインで有名なナパバレーに行く機会がありました。そこは石が敷き詰められたような畑としては最悪な畑で、灌水装置により水分調節ができる圃場にしていました。しかし、ワイン用のぶどう畑として高品質のぶどうの生産を実現して有名なワインの産地をつくり上げました。大きなカルチャーショックでもありました。
観光の分野では、冬の道内の観光地が集客に苦労している中で、北海道ニセコはオーストラリアなどからのスキー客で常にいっぱいです。先日、その仕掛け人でもあるオーストラリアから日本の冬に観光客を呼び込む現地日本法人の副社長が来られました。10年前からこの事業をスタートして現在に至っています。もうすでにニセコでは受け切れず、第ニの受け入れ先として富良野にアプローチを始めました。20年以上前には、冬のスキー客が夏の観光客を上回っていましたが、20年前を境にして夏冬が逆転してスキー場の存亡すら危うくなってしまいました。しかし、これからは、オーストラリアをはじめ外国人観光客が冬のスキーを中心にした観光が復活する兆しと同時に、逆転すらある可能性がでてきています。農業も観光と同じように、冬のマイナスイメージを克服するプラスの発想による打開策を見出すことができる可能性があるのではと感じています。一過性のイベントではなく、冬中活動できる農業を見つけ出さなければ自立した農業にはならないと思います。内部からの改革は、大変、困難を要することはどの分野でも同じです。やはり、外部からの力を借りながら主体的に改革できる手法を見つけ出さなければならないと思います。
私の農園は、知らず知らずのうちに農業と観光が結びついた方向に進んでいます。平成20年度の経済産業省北海道経済産業局の調査によると多角化の進んだ農業法人ほど高成長している結果がでています。平成15年から20年の5年間の全国の農業生産法人の成長率は生産のみで125%、生産と販売では138%、生産と販売・加工を組み合わせると122%に下がり、生産・販売に観光を組み合わせると190%に上がっています。加工の分野を導入することが、設備投資や販売面で期待した結果を求めることが難しいことが分かります。しかし、生産・販売・加工・観光の4つ全部を組み合わせると400%と飛躍的に成長しています。自立した農業を確立するためには、観光という要素は大変重要なキーワードになることがわかります。観光といっても様々な形態があり、農業と観光をどう結び付けるかは農業サイドから考えると答えを見つけることは難しいことです。なぜなら、農業を営みながらの観光事業は、あまりにも時間と労力がかかり過ぎます。家族経営では難しいことは容易に想像できます。法人経営が成り立つ農業経営形態にシフトしていかなければ、目標の成長率を達成することは困難でしょう。
私たち農業者は、自立した農業を選ぶか、国の庇護のもと補助金にたよる農業を選ぶか選択しなければなりません。一般的には、小規模農業は前者で、大規模農業は後者です。私は前者を選択しましたが、規模拡大ではなく、事業展開をしていった結果、面積ではない事業拡大の方向に進まざるをえなくなり、3年前より中規模農業を目指すことにしました。当農園は、国の補助金を利用した設備投資はありませんが、現在、必要な設備投資はすでに終わっております。ただ、後述するワイナリーの開設を控えているのでもうひと山越えなければなりません。それと同時に人材を活用して事業展開を進めることになります。特に出口である販売面の強化は喫緊の課題です。農家民宿や農業体験にも多くの人たちが足を運んでくれています。しかし、事業展開の中では、限界があります。現在、事業の中心にしていかなければならないのが、にんじんジュースや野菜おやきなどの加工品とワイン事業です。当農園の商品アイテム数も徐々に増えつつあり、販売に向けての戦略が求められています。来年は、直営店の出店も予定しており、ようやく、本格的な販売に向けて動き出すことになりました。
また、2年後を目標にワイナリー開設の準備を進めているところです。国内のワイン事情は、ワイナリーの数も増えており、販売には工夫が求められています。品質的には、北海道以外の地域では、異常気象による高温障害等でぶどうの品質の低下が著しいようです。その点、北海道がワイン用ぶどうの適地になりつつあります。当農園は、ピノ・ノワールとシャルドネ、メルロを栽培しています。特にメルロは北海道の気候ではうまく育たないと言われています。要するに熟し切れないわけです。栽培期間中の積算温度が足りないのが原因です。昨年、初めてメルロを収穫しました。醸造家のブルース・ガットラヴさんに醸造をお願いしました。ブルースさん曰く、いままで北海道のメルロでいいメルロにであったことがないとのことでした。ブルースさんは、当農園のメルロに期待をしていました。なぜなら、上富良野は盆地で夏場の最高気温も高いからです。しかも、石の多い畑に植栽しました。ブルースさんの予想どおり、品質がいいメルロを収穫することができました。昨年は、9月中旬から収穫期まで雨が多く、曇り空でしたので、道内のワイン用ぶどうの糖度は低めでした。当農園のメルロも同じく少し低めでしたが、ぶどうについている野生の酵母で無事、アルコール発酵が終わり、ワインになりました。でき具合もいいとのことです。北国のワインの特長としては色が薄めで酸が高くなります。その酸を化学的に中和するかどうするかということになりましたが、私は、自然のままでその酸もこの地の特長として味わってもらうことにしました。ブルースさんも同感でした。先日、澱引きを行い、順調にいけば8月に瓶詰の予定です。ピノ・ノワールも品質がいいワインになってきています。昨日(5月17日)、アメリカ、カリフォルニアのサンフランシスコから車で2時間東に行ったところにあるワイナリーのオーナーが訪ねて来られました。2,012年ピノ・ノワールを試飲されましたが、何度も「Good」と言っていました。ワインの専門家からポテンシャルが高いとの声もいただき、大変、励みになります。平成28年度が、ワイナリー開設の年として準備を進めています。新たな投資が必要になりますが、既存の倉庫を利用して必要最小限の設備投資でスタートしたいと考えています。
これからは、ワインが中心の多田農園に変わりますが、あくまでも健康な社会づくりに貢献する姿勢は崩すことなく、安心して食べて頂ける作物づくりと加工品づくりに努力して、楽しい落ち着いた農園づくりに邁進したいと思っています。

2014年5月18日