わたしの農業 2012         
                                  多田 繁夫 

今年も全国各地で異常気象などの被害が出始めています。毎年、異常気象ですのでもう異常気象と呼ぶのは相応しくないのかもしれません。
当農園がある北海道上川地方(南北に300キロメートル位)の中でも、干ばつや干ばつ傾向ではあるが適当に降雨があるところなどさまざまです。この10年来、局地的に豪雨になったり、まったく雨が降らなかったりと極端な気象に翻弄され続けています。このような気象と土壌条件は大きな関わりがあります。
私の畑のような砂壌土や礫などの多い圃場では、水はけがよく少しの干ばつでも作物の生育に影響がでます。粘土質の土壌や泥炭質の土壌では、少々の干ばつでは大きな影響はありません。適度に晴れて、適度に降雨があり、適度な気温など一生農業をしても一度もめぐり合うことはないでしょう。
今年、栽培している作物は、にんじん(減農薬、減減農薬、無農薬・無化学肥料)、とうもろこし(ミエルコーン)、かぼちゃ(ほっこり)、醸造用ぶどうです。
醸造用ぶどうは、ピノ・ノワールとシャルドネを植栽しました。カベルネ・ソービニョンをテスト栽培のため植栽しましたが、発芽が79%と低く、気候的には北海道は栽培が難し品種です。ピノ・ノワールとシャルドネは100%の発芽となり、現在、順調に生育しています。
ワイン用ぶどうのなかでも、欧州系、それもフランス以南で栽培されている高級品種を北海道のしかも最低気温がマイナス30℃以下になることもある富良野盆地のなかで栽培することは、至難のわざです。ピノ・ノワール、シャルドネ、メルロを栽培していますが、病気にも弱く、一定の積算温度も必要な品種にとっては、当農園の気候、土壌と品種の特性との関係でどのような結果がでるかは、いろいろと試してみるしかありません。
それも年に一度しか試験をすることができず、今までの作物づくりの経験を活かしながら総合的に判断して当農園での栽培法を確立するしかありません。メルロは昨年の12月8日にマイナス25℃という12月上旬には経験したことのない低い気温になり、その影響で凍害に遭ってしまいました。幸いピノ・ノワールとシャルドネには被害がなく感謝しています。
メルロは3年目を迎え、今年は、収穫を始める年でした。1年目、2年目と順調に生育していただけに残念でしたが、今年は、新たに結果母枝(幹)づくりをして来年出直しを図るために準備をしています。メルロの委託醸造先は、北海道岩見沢市栗沢に3年前入植したブルース・ガットラブさんにお願いをしていました。ブルースさんは、カリフォルニアのナパ・バレー出身の醸造家です。20代半ばで栃木県足利市にあるココファームワイナリーに醸造家して招かれ、以来20年以上、ココファームでワインづくりに携わり、日本で開催されたサミットでも利用されたワインをつくった方です。
3年ほど前に北海道に来られ、ぶどうを植えて、今秋にはワイナリーが出来上がります。ブルースさんと今春にお会いしたときも北海道のメルロを楽しみにしていました。先日、今年の収穫は無理ですと伝えると大変残念がっていた様子でした。
ピノ・ノワールは、6年目を迎えましたが、いろいろと失敗の洗礼を受けています。ぶどう栽培をはじめ果樹栽培は一度も経験したことがなく、しかも当時3月末の突然のぶどう栽培でしたので、まったくゼロからのスタートでした。まず、1年目は、8月中旬からベト病が多発しました。
ぶどうは自宅前の庭にある1本のナイヤガラしか間近に見ることはありませんでした。ナイヤガラは適当に剪定さえすれば、秋には、食べきれないほどのぶどうがたわわに実をつけ、毎朝、ドアを開けてすぐ側のぶどうの樹からぶどうを採って、食卓に載るという最高の贅沢をあじわっていました。
その感覚があったのでしょうか、少し栽培を甘くみていたのでしょう。ベト病は一度発生するとどんどん広がってある程度止めることはできますが、元に戻すことはできません。
2年目をしっかりやれば挽回できるとのことでしたので、2年目は、ベト病の発生を予防していい樹に育ってくれました。3年目は、品質のいいぶどうを収穫でき、ワインの委託醸造は委託先の宝水ワイナリーの都合でお願いすることができず、果汁としてジュースにしました。
なんとこのジュース、価格が高いにも関わらず、500キロ分のジュースが2か月ほどで完売しました。
味を決める糖酸度の割合がよかったのでしょうか。また、ひと房ずつハサミで不良な粒を取り除いたため大変純度の高い、透明感のあるジュースになりました。3年前の販売でしたが、いまなお、あのジュースは作らないのですかと言われています。神戸の年輩の様子の女性から電話で、なぜ作らないかと詰問されました。あのジュースは、食事のじゃまをしないジュースだそうです。食事会でもアルコールが飲めないひとはたくさんいます。ワインなど飲めるひとは、高価なワインなどを飲みながら食事をしますが、一緒に食事をしていても飲めない人は、ウーロン茶か普通のジュースを飲むしかないのです。
一般のジュースは、食事のじゃまをするとのことです。ですから、ワインを飲めない私たちにとっては、いくら高くたっていいですとのことでした。なるほどと思いました。高いお酒を飲みながら食事会をするときは、高いジュースを飲みながら一緒に食事をすることが、飲めない人にとっては、気持ちがいいことかもしれません。わたし自身、あまりアルコールが飲めないので気持ちがよくわかります。将来、ピノ・ノワールとシャルドネの超高級ジュースをつくりたいと思っています。
4年目もなんとか収穫でき、ようやく待望のワインづくりのため委託醸造先の宝水ワイナリーで仕込むことができました。昨年の10月にリリースしましたが、少し早かったようです。まもなく樽熟成、ビン熟成して2年を迎えようとしますが、ようやく、いい香りがでてきました。やはり最低2年は寝かさなければと感じています。
今年の2月、再びブルゴーニュを訪ね、ワイナリーを訪問しましたが、2年以上寝かせてから販売するそうです。昨年は、また、試練を与えられました。灰色カビ病が多発して、大きな減収になりました。ぶどうの開花期(7月10日頃の1週間位)に強い雨が数日降り続き、花が落ちたのとちょうどこのころ発生する灰色カビ病により、せっかく受粉した実まで病気に冒されて予定の三分の一以下の収量しか採れませんでした。
ボトルに詰めたワインは僅かな本数のため、ワイン畑の会の会員さんに差し上げることもできず、今年は、野菜や加工品をプレゼントする予定です。自然相手とはいえ、私の勉強不足でした。今年は、ベト病、灰色カビ病、凍害などには、細心の注意を払って管理したいと思っています。しかし、また、新たな病気が発生しています。途中まで順調に育っていた枝が枯れる病気です。罹病数はまだ、少ないですが、原因が分かりません。調べてみるとつる割れ病ではないかと書いてありましたが、その農業改良普及センターの資料でもクエッションマークがついていましたので、いまのところ不明です。
ワインづくりは農業そのものであると誰かがいっていましたが、そのとおりです。ぶどうの収穫時の状態により、アルコール発酵させるためにどの酵母をつかったらいいワインになるかを見極めなければなりません。どんな専門家もできてみなければわかりませんし、それが何年後に最高の飲みごろになるかは、誰もわからないといいます。だからおもしろいと思います。
自然酵母でワインを造るワイナリーもありますが、リスクは高いそうです。ワイン用のぶどうも毎年増やし続けて、現在、140aほどになりました。来年50aほど新植して、第一次ぶどう植栽は、終わりにしようと思っています。
約200aあると片手間でできる面積ではありません。障がい者の皆さんの働く場として利用したいと思っていますし、現在、すでに利用を始めております。昨年、仕込んだぶどうは、タンニン(渋み)が強いので数年後が飲みごろになるのかなと醸造家が言っています。ワインづくりは、長い年月の取り組みの中から醸し出される魅力的な産業だと感じています。
私の代に果たして軌道に乗せることができるか分かりませんが、つくりあげるプロセスを楽しんで進みたいと思っています。気が付いたら軌道に乗っていたとそんな日を夢みながら悪戦苦闘の日々がまだまだ、続くことでしょう。非効率的な農業をやりながら多田農園自体の存亡が危うくならないように、しばらくは緊張感をもって進まなければと感じているところです。
今日は、ツアーのランチを主体的に受け入れる初めての日です。今頃(午前11時)厨房はてんやわんやでしょう。また、まもなく苫小牧の中学生が農業体験で来園します。

2012年7月9日