わたしの農業 2011         
                                  多田 繁夫 

3月11日午後2時46分、日本は大地震による未曾有の災害に襲われた。その時、私は旭川市内で微生物資材や有機のにんにくを栽培している会社の事務所で社長と楽しい会話を交わしていた。ゆっくりとした大きな揺れが始まった。女性社員が携帯電話で地震情報を流してくれた。一瞬、宇都宮にいる息子のことが頭をよぎった。すぐ電話をしたが繋がらない。30分位後だったか1回の呼び出し音で息子の声が聞こえてきた。「大丈夫だよ。車を運転中だったが電柱を避けて止めたから」と。その後は、まったく電話は繋がらなくなった。自宅に戻ってテレビで見た光景は信じられないものであった。そして、今なお被災者は絶望の淵で耐えながら生活をしている。さらに人災でもある原子力発電所からの放射能漏れは、豊かな自然を享受していた農山漁村を不毛の地へと変えようとしている。震災に遭遇した地域のみならず、日本経済に与える影響は大きい。放射能汚染地域では農業を営むどころか人が生活することも許されない。福島原発は、1975年頃アメリカのゼネラル・エレクトリック社のものを導入した。当時は日本の技術力は低く、当社と日本の企業とは師弟関係だったそうである。そのなかで当社の技術者の一人が安全性に異を唱えた。しかし、会社は販売戦略上の理由で耳を貸さずに推し進めた。私は、ちょうど同じ頃の1974年に研修でひと月ほどアメリカに滞在していた。その時、一緒に行ったメンバーの一人のホームスティ先が確かゼネラル・エレクトリックしゃの副社長の家であったと記憶している。当時、大きな会社だとは聞かされていたが、原発と関係があるとは知る由もなかった。一日も早い復旧と復興を望むとともに、放射能汚染がこれ以上広まることなく、一刻も早く収束することを願わずにはいられない。
 
 農業と工業は常に対局において語られますが、農業は唯一、50%のエネルギーで100%を生産できる産業です。いわゆる光合成のエネルギーで生産できる産業です。他の産業は、100%以上のエネルギーで100%の生産をしているといえます。ということは、農業をすることだけで地球環境に大きく貢献していることになります。しかし、現代の農業は農薬や化学肥料の多用により、農業自体が環境を悪化させているといわれることも少なくありません。私も以前は農薬や化学肥料を普通に使用していました。農作物を市場出荷するためには、形がよく、病気や害虫の被害の無いものでなければ、高く評価してはもらえないからです。規格の種類もかなり細分化されました。これは消費者が望んだわけではなく、生産者が望んだわけでもありません。流通が望んだ結果です。価格を形成するうえで、規格をより細分化した方が比較し易く、単価がつけやすくなります。私の生産するにんじんも11種類にも選別しなければなりません。少しの変形でも規格が違います。食べるのにはなんら支障はありません。日本は不思議な国だと思います。しかし、この流通システムの改革に一農家が臨むには、あまりにも大きすぎます。
 昨年は、猛暑と度重なる大雨の影響で当農園のにんじんやとうもろこしは大きな被害を受けました。多くが売り物にならなかったのです。日本はコールドチェーン(生産地から消費地までの冷蔵流通システム)が発達していませんので、真夏の東京などへの出荷は、着荷してから短時間のうちに劣化していきます。商品価値が半減もしくは全滅することすらあります。また、流通の担当者の認識不足も商品劣化の大きな要因です。スーパーなどでは、カレーセットとしてじゃがいも、玉ねぎ、にんじんが同じ売り場に置かれているのをよく目にします。じゃがいも、玉ねぎは常温でも比較的棚持ちがします。しかし、にんじんは収穫後、水のシャワーを掛けながらブラッシングして土を洗い落とします。その時のブラッシングでにんじんの皮も剥けてしまいます。一皮剥けた状態ですので、大変、雑菌が入り込み易い環境です。常温では決してもたない状態です。そのことを市場関係者もスーパー関係者も分かっていないのが現状です。
 私の畑は、にんじんの選果場と近く、真夏の炎天下でも収穫したばかりのにんじんを短時間で水槽に運び入れて、豊富で良質な伏流水を掛けながらブラッシングして選果し箱詰めされ、倉庫の大型冷蔵庫で冷やされます。そして、完全ににんじんが冷えてから冷蔵機能付き大型トラックかJRの冷蔵コンテナで市場に出荷されます。とうもろこしは、一本一本手でもぎ取り倉庫に運んでへたの部分を切り取って3種類の大きさに選別され箱詰めし、冷蔵庫で冷やしてからにんじんと同じ方法で輸送され市場へと出荷されます。とうもろこしは、収穫後の時間の経過とともに糖度が落ちていきますので、鮮度がいのちです。いかに早く冷やして、いかに早く届けるかが勝負となります。昨年は、猛暑と多雨により収穫近くなって特に生育が進み、商品価値が損なわれるしなび現象が多発してしまいました。7万本ほどのとうもろこしを栽培していましたが、瞬く間に広がったしなびに有効な手を打つことができず、大きな被害を受けてしまいました。そのような中、僅かな量ながら厳選してお客様にお送りさせていただきました。また、当農園の加工室でホールコーンにして冷凍ストックしておきました。そのホールコーンを使ったじゃがいもとコーンをあんにした農園おやきが今年1月より「多田農園のおやき じゃがコーン」として製造、販売(冷凍)に至りました。お陰様で好評のようで徐々に注文も入っています。今年は、じゃがいもも自家加工用に栽培したいと思っています。
 ワイン用のぶどうは、昨年の気候が合ったのでしょうか、かなり良い出来でした。糖度が23度、酸度9%と醸造家の評価は良いとのことでした。栽培歴4年のぶどうとしては上々とのことで、うれしく思っています。昨年10月半ばに収穫したぶどうは、すぐ委託醸造先の岩見沢市にある宝水ワイナリーに運び入れ、当農園専用タンクに搾って入れ、10日ほどでワインになりました。その後は、澱引きといって酒石酸を取り除く作業が行われた後、樽熟成をして今年4月3日に樽から瓶詰めをしました。さらに、瓶熟成を経て、今年の10月に多田ワインが初めて世にでることになります。10月はぶどうの収穫期でもあり、小さなワイン祭りでもできればと思っています。
 先日、雨と寒い日が続く僅かな合間に、ピノ・ノワールの苗木300本を植えました。この苗木は、1月末より募集しているワイン用のぶどうの樹のオーナー制の苗木でもあります。今後、番号札を付けて管理していきたいと思っています。多くの皆様にご支援いただき、心より感謝いたしております。今年は、さらに白ワインのシャルドネの苗木450本を植えます。今年からは、このぶどう畑で障がいをもった人たちに作業をしてもらいたいと考えています。今後もオーナー制で皆様に支援していただきながら、障がいをもった人たちの働く場をより多く提供できるように力を注ぎたいと思っています。
 教育ファームの取り組みは、今年、内閣府の支援事業の採択を受けてかなり加速度的に前進して、受け入れのネットワーク化を構築していく予定で準備を進めています。行政にもサポートの協力をお願いし全町的な取り組みまで進めることができればと考えています。冬期間に受け入れ農家の募集、研修等を行い、各学校、会社、団体等への働きかけの体制づくりも同時進行しながら来春からの本格始動を目指したいと思っています。教育ファームは、農業体験や農場視察のほかに、必ずオーナー自身が授業を行うことに特徴があります。この授業がなければ教育ファームとはいえません。今年はそのためのモデルプランづくりが中心になります。また、さまざまな内部規制も作成しなければなりません。新たな受け入れ組織「かみふらの教育ファーム推進協議会」の組織化は今秋を目処とし、教育ファーム関係の新たな法人の立ち上げも予定しています。
 いつも忙しい日々ですが、今年は畑作業や環境整備、加工品の販売などを担当するスタッフが一人加わり、少しは忙しさから解放されそうです。当農園で長らく勤めて頂いているパート従業員の皆さんも畑作業、選果場の作業、にんじんジュースづくりなどの加工作業、宿泊施設の清掃作業、さらには、冷凍おやきづくりとさまざまな仕事をこなしてくれています。心から感謝です。
 私の農園は、社会に貢献できる農園として社会性のある事業をより多く取り入れて進めようとしています。また、健康な食の提供と豊かな暮らしの提供を目指しています。農村と農業にしかできない使命があるはずです。多くの方々の支援や協力を得て、「こころとからだにやさしい食と暮らしを提案する」小さな農家のちょっと大きな取り組みが今年も引き続き行われます。

2011年4月30日